#35『グラビティフォールズ』ミテクレビュー
双子のパインズ兄妹ディッパーとメイベルが叔父のスタンがいる町、グラビティフォールズに夏休みの間だけ滞在する。そこで巻き起こる数々の怪奇現象の謎や騒動を描く。子供向けアニメのようだが、独特のミステリアスな雰囲気やテンポよく繰り広げられるギャグ、そして巧妙に散りばめられた謎の数々に大人も虜にされ、批評家からも絶賛を浴びた。大人から子供まで楽しめ、そして怖がらせることに成功させた、まるで一夏のキャンプの日々を思い出させる香りを内在したディズニー・アニメの大傑作。
この作品の魅力を三つに分けて今回はご紹介。
一、天真爛漫いつもキラキラなメイベルの魅力
二、散りばめられたサプライズ
三、終わらない夏
ネタバレはなしです。物語の結末や核心に触れるのはまた別の機会に設けます。なので今回はミテクレビュー、次書く時はネタバレビューとしましょう。
■天真爛漫いつもキラキラなメイベルの魅力
このアニメは12歳の双子、頭脳派な男の子ディッパーと、底抜けに楽観的なメイベルの二人を中心に動いてゆく。
グラビティフォールズで起きる怪奇現象についてまとめられた本をディッパーは偶然発見し、その本に隠された秘密や埋められなかった空白を埋めてゆく。
一方、メイベルは恋にトキメキ、可愛いペットよったん(ブタ)や新しい友達とどんちゃん騒ぎ。
お互いがそれぞれ違った性格で、各々にその夏を楽しんで行く。
そんな二人の面倒を見るのがスタン叔父さん。とりあえず金儲けが大好きで、軽犯罪ならほぼクリアしているというキャラクターだ。そしてグラビティフォールズの秘密の鍵を握る人物であることを第一話で示している。
このアニメの大きな魅力はこのキャラクターたちだ。彼らを初めとして、サブキャラや悪役まで個性的に明確に描き分けられ、そしてミステリアスな町の雰囲気を助長したり、コメディとしての側面を高めることの両方にちゃんと機能している。
とりわけメイベルの性格や動きはかなり視聴者の目と心を奪うに違いない。
メチャクチャかわいいビジュアルではないのだが、台詞や行動でどんどん彼女の魅力の虜になってゆく。ここらへんはアメリカのアニメは本当にうまい。一見しただけで「カワイイ!」と思えないキャラクターをどんどん好きにさせてゆく。つまり、見てくれではなく、性格から愛されてゆくキャラクター造形を作るのが上手い!
特にこれはピクサーとか、カトゥーンアニメでよくあるけど、誰が見ても可愛いという造形ではなく、どこか異質なアクセントを取り入れていることがままある。目の幅や輪郭、髪型がわざと整っていない感じ。メイベルの場合だと矯正をしていたりね。だが、そこがいい!ってなってくる。
本当にキャラクターを愛おしいと思う気持ちが育まれている気がする。あんまり使いたくない表現だけど、加算式に好きになっていくってことかな。
メイベルはとにかく楽観的で、彼女がこのアニメの明るい部分の大半を担っている。それは他のキャラクターが暗いというわけではなく、突き抜けて明るいということ。
英語だと明るい人を“Sunshine”と呼ぶときがあるけれど、メイベルは正に太陽のように明るい。そして想像力と感受性が豊かで、絶対親戚のおばちゃんとかから好かれるタイプだ。
だからといって、ただ明るいだけの平面的な人間ではなく、ちゃんと彼女の成長もこのアニメの終盤に持ってくることにより、キャラクターの深みが増す。そして何より、メイベルの成長する姿や前に進む姿勢こそ、このアニメを観ている視聴者への鋭い指摘になっているあたりもディズニー、ちょっと厳しすぎるよ!といいながら、切なくも温かい気持ちになることは請け合いだ。このことについての詳細はまた次回のネタバレビュー編で。
■散りばめられたサプライズ
コンビがある町で繰り広げられる怪奇現象の謎の解明や騒動に巻き込まれるという大まかなストーリーの元ネタは「ツインピークス」と「Xファイル」だ。正にツイン=双子だしね。しかも物語の後半に登場するこのアニメの一、二を争うぐらいの人気キャラクターの声をデヴィッド・リンチにオファーしていたり、カイル・マクラクランが最終回のあるキャラクターの声を演じていたりするからね。
おっと先走りました。
とにかく、何が言いたいのかというとこの「グラビティフォールズ」という町では何が起きても不思議じゃない空間になっているということだ。
グラビティフォールズの町の中と、外では明らかに違う。物語のほとんどはこの町の中だけで繰り広げられるためでもあるし、その秘密も後々明らかになってゆく。
また、町の住人達も時折見たこともない生物や科学的に説明できないような怪奇現象が起きているにも関わらず、騒いでいないしニュースにもなっていない。ここに突っ込むのは野暮なのかなと思いきや、これまたこのアニメの大きな仕掛けになっているあたりも捻りが効いている。
そして随所に散りばめられた伏線がとにかく凄い。基本は一話完結もののストーリーなのだが、その話には直接関係ないけれど既にだいぶ先で重要になるアイテムやキャラクターがさりげなく描かれていることがまぁ多い。しかも、それは後で「あぁこれどっかで見た!」っと気づく伏線もあれば、言われるまで気づかないものの両方ある。
例えば、第九話「チャンスは一度きり?」では、未来からきたキャラクター:ブランディンが登場する。彼はタイムトラベルができる装置を持ってグラビティフォールズにやってきて、ディッパーとメイベルがそれを使って大変なことになるのだが、実はブランディンは第一話からさりげなく登場している。ほんの一瞬、背景にチラリと。しかも第一話だけではなく、他の話にもね。これは作中でわかるようになっているし、もう一度第一話を見返したくなるキッカケにもなる。
また、ほとんど誰も気づかない伏線として叔父スタンの免許証などに貼られている証明写真が実は第31話で明らかになるスタンの秘密の手がかりになっているが、これは作中写真が写るだけで説明はない。これらの伏線についてもネタバレビューにていくつかご紹介します。
凄いですよね。この町グラビティフォールズでは何が起きても不思議じゃないってわかっているのに、数々の不思議な出来事に驚き、そして丁寧に盛り込まれた謎と、それを解く手掛かりに魅了されるんですから。
■終わらない夏
最後のオススメポイント。というかこれが一番素晴らしいと思った点だ。
それはこのアニメ独特の雰囲気だ。子供向けアニメではあるけれど、このアニメは大人からもかなりの高評価を得て、テレビ界のアカデミー賞と言われるエミー賞を二度受賞し、数々の批評家から称えられた。
このアニメにはこれまでアニメで感じたことのないとしか言いようのない魅力が含まれている気がしてならない。前述した通り、身近で起きる不思議な出来事を解決してゆくというスタイルはドラマでもアニメでも、漫画でも多々ある。その上でこの『グラビティフォールズ』が唯一無二のアニメである“何か”とはなんだろう。
多分、懐かしさだと思う。
子供は親しみやすい絵のタッチにわかりやすいお話の展開やギャグで十分楽しめる作品になっているんだけど、大人が観るとそこに懐かしさという子供がこのアニメでまた感じることのできない感情を抱くと思う。
夏は不思議な季節。なぜかワクワクする季節だ。今もそうかもしれないけれど、子供の頃とは比にならない。
夏は特別な時間だ。普段できないことを一杯できる。例えば、いつもの家ではなく、知らない場所で、違う枕で寝るだけでどれだけ明日が楽しみになるか、という気持ちを思い出させてくれる。
しかも、この気持ちを湧き起こさせるのが違う国の作品というのが驚く。懐かしさとは人それぞれ違った故郷で抱くものかと思ったけど、それは違う。懐かしさとは場所だけではなく、子供の時に抱いた気持ちを思い出すことだということを改めて気付かさせてくれる。それが場所であったり、音楽であったり、声であったりするだけだ。そしてこのアニメがその一つになり得るというだけだ。
このグラビティフォールズはそんな魔法がかけられた作品だ。子供の頃にいつもと違う場所で、見慣れない天井を見ながら目を閉じただけでワクワクして眠れなくなるような経験をしたことがある大人なら絶対に観て欲しい傑作だ。
しかも、そんな風に観客の心を虜にしておいた上で最終回近くビシッと観客にハッとさせるようなメッセージを突き付けてくるあたりはもう子供向けアニメの領域を超えているよ。これもネタバレビューにて。
■最後のひと言
最長のレビューになってしまいました。
この作品はまだレンタルも、DVD販売もしていません(2016/8/31現在)。
本国アメリカでもネット配信の動画サービスでしか鑑賞できないが、恐らく近いうちソフト化はされると思います。
あぁ、そうそう。このアニメは日本語吹替えがお見事です。自分は基本原語派なんですけど、この『グラビティフォールズ』は日本語吹替えのはまり具合や演技がかなりイイ!なので海外版ではなく、日本版がリリースするのを心待ちしています。
このアニメはひと夏の出来事を描いているので、8月31日に終わるので、この8月最後の日にレビューしました。
本当にただひたすら楽しく、スリリングなアニメなんですが、同時に子供の頃があって良かったな、という当たり前のこと、そして大事な宝物を自分は持っているという当然な幸せを感じれられる、あの忘れられない夏をもう一度思い起こさせてくれる。思い出に寄り添ってくれるような優しさがある一本です。
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