#49『IT / ”それ”が見えたら、終わり。』
IT becames Hit!! 驚異的な興行収入と高評価を引っ提げてなぜか文化の日にやってきたジュブナイルホラー、言い換えると現代社会が舞台のダークファンタジー。ピエロ恐怖症発症者の数をまた伸ばすのではないかと懸念しつつも、私は超楽しめました。ガクガクとワクワクが一つの映画で味わえる贅沢な一品。それが“イット”です。That’s IT です!(しつこい)
※ネタバレ注意です。鑑賞後にどうぞ。
■近年大ヒットしたもう一つのイット
ホラー映画ってのは怖くてなんぼ。これは確かです。その物差しで測った場合、この『IT』より怖い作品はなんぼでもあります。怖がらせ方や驚かし度でいったら近年だと『死霊館 エンフィールド事件』なんてとっても良かったです。映画館で観た時オムツ案件かと思いましたよ。
今作のホラーシーンの演出もとても良く、初日の夜の劇場ではショックシーンで悲鳴の声(女性の客も多かったのですが男性の声の方が大きかった気がします)がたくさん漏れていました。ただ、私はホラーシーンで怖いというより違った感情を抱きました。強がっているわけではないですよ。普通に怖かったですもん。けれど、ペニーワイズというキャラクターがどんどん愛おしくなっていく感じの方が強く、ショックシーンではビビりつつも「いやぁ、いいねぇーペニーたん」とニコニコしてしまいました。これはまた後述します。
さて、実は最近、これに似た作品ホラー映画が大ヒットしました。
それは『イット・フォローズ』です。
『イット・フォローズ』では“イット”が取り憑かれた人間にどこまでもそいつは追いかけ、殺す。取り憑かれた人間が“イット”から逃げるためには誰かとセックスをするしかない。セックスをすることによって、“イット”の標的をセックスの相手に移すことができるという少し変わった死という名の鬼から逃げる鬼ごっこでした。
多くの事が『IT』と共通しているんです。
まず主人公たちに襲い掛かるものを“IT”(鬼)と呼んでいる事。
“IT”は大人には見えない事。
そして、この恐怖から大人の力を借りず、子供たちだけの力で立ち向かってゆくことです。
ホラー映画はよくその時代の恐怖を図らずしも反映していることがある、と言われます。
『イット・フォローズ』との話はここまでにしますが、このような共通点を持つホラーが近年大ヒットをしているというのはこれらの映画にはまだ私たちの気づいていない潜在的な時代の恐怖が、漠然と、だけど確かにそこに黒く妖しく恐ろしく照らされているのではないかと考えてしまうのです。
■恐怖を与えることに意味を
ホラー映画を観賞していて、災厄や怪奇現象が幽霊や悪魔などの超自然的な存在によって引き起こされてるのを見てこんな疑問を持ったことはありませんか。
「なんで、ここまでしてビビらせるんだろう?」
だって、とっとと殺った方が早いでしょ!もし目的が命を奪うことならば。なのに変に凝った演出をして徹底的にビビらせる。幽霊や悪魔が直接手を加えられないため、あまりの恐怖に絶命させるしか手段がないならわかるけれども、そんなこともないよね。
だから、「どうして人をこんなに怖がらせるのか?」を疑問に持つと、どうしても「彼らは人の怖がるところが見たい!という困ったお茶目さんなのかな」と考えてはいけないことを考えてしまう。だからこの疑問には蓋をしておくのがいい。
けれどこの『IT』ではそれにちゃんとした動機や理屈が通っているんです。
『IT』では“イット”こと踊るピエロ:ペニーワイズが登場人物たちの脅威として襲い掛かります。ありとあらゆる手段で、その人その人ごとに趣向を凝らして、怖さの見せ方や追い詰め方をカスタマイズしてゆくというサービス満点の徹底ぶり。まぁ、やっていることは他のホラー映画でやってきたこととそんなに大きな違いはないです。けれど、そこにペニーワイズがやるからこの数々のホラー演出にちょっと違った印象を抱けるんです。
これは度が過ぎたピエロの悪ふざけなのだと。
言い換えると、子供を笑わせることを忘れて、脅かしたり怖がらせたりする方向に振り切ったピエロがペニーワイズなのではないかと。
他のホラー映画で感じるドッキリシーンで登場人物がビックリした後、幽霊や悪魔のような存在がそれを見て喜んでいるのかな、と想像するよりも、ピエロであるペニーワイズが怯える人々を見てゲラゲラと手を叩いて笑っている姿は容易に想像がつきます。
人をビビらせたり怖がらせたりするのが好きそうな怖い存在ってことに強い説得力がペニーワイズの“ピエロ”の姿によって生み出されているんです。ここがとても好きです。そしてこれは『バットマン』シリーズの悪役ジョーカーのピエロを用いた造形の素晴らしさにも繋がりますね。
また、作中でも子供たちを怖がらせれば怖がるほど味が良くなることをペニーワイズは言及しているのでここでも怖がらせるのに彼なりの理屈が通っているのです。ちゃんとペイがあるから、彼も頑張っているんですね。そう考えると、ちょっと可愛く感じませんか。結局は「おいしくなーれ!」って手間をかけていることと一緒です。子供たちにかなり迷惑なやり方でね。
だからこそ、ペニーワイズが最後に倒される直接的なきっかけが“恐怖を感じたこと”ってのが効いてくるんですよ。さすがの彼も「私という存在が無くなってしまうかもしれないって」ことに対して恐怖するってことは説得力あるよね。今まで人に散々な目に合わせておいて、それが同じように自分の身に降りかかった時にギョッとしてしまう感じはあるでしょ。いるでしょ、そんな人。
■素晴らしき子役たち
敵のペニーワイズの素晴らしさばかりを語ってきたので子供たちの方に焦点を合わせましょう。
やはり、子役の子達の演技はどれも素晴らしかったです。一人一人キャラがハッキリとわかれていたのは脚本の力が大きいとは思いますが、それに見事な説得力を子供たちが持たせています。キャラクターがそれぞれの性格、そしてそれぞれの抱える問題の二つによってちゃんと描き分けられていますが、私はベンとリッチーの二人が好きですね。
淡い恋心を抱くおデブちゃんで好きなベバリーちゃんに詩をプレゼントしちゃうというロマンチックなベン。なんとなくだけど、ビルよりベンの方がベバリーちゃん大事にしそうだよ!
ひと言多くて子供とは思えない下ネタを飛ばすけど、やるときはやるリッチーはとても輝いていましたね(ちなみに、リッチーのギャグは彼を演じたフィン・ウルフハードのアドリブがほとんどだそうです)。
ここら辺の子供たちの造形を考えるとやはり『グーニーズ』を思い出さずにはいられませんね。
あと、ベバリーちゃんの学校の日陰者がふと優しくされたり遊んでくれただけで好きになってしまう女の子って雰囲気がとってもいい!これは男の子、好きになっちゃうかもネ!って説得力がしっかりと備わっています。そしてお尻が超綺麗!って思ったら結構家庭問題がえげつないのでシュンとなってしまいましたが…でも綺麗ですね(まだ言うか)。
ちなみに、監督は子役たちとペニーワイズを演じたビル・スカルスガルドはを実際にその撮影シーンが来るまで顔を合わせないようにしていたそうです。そして初めて子供たちがペニーワイズと対面するシーン初日の前にスタッフたちは子供たちに「彼(ビル・スカルスガルド)、怖すぎるけど気を付けてね」と警告しました。子供たちは「いやいや、大丈夫。だってただメイクして演技しているだけでしょ。こっちもプロなんですからわかってますよ」と余裕の態度だったが、実際に撮影のシーンになったら本気で怖がってしまったらしいです。
■最後のひと言
『IT』は私にホラー映画で中々味わえなかった喜びを感じさせてくれました。
それはワクワク感です。
子供の頃、『グーニーズ』などを見て同世代の子供たちの冒険を見ることによって心を躍らせていましたが、実はこの『IT』のように、ホラーなんだけど子供心に抱く冒険へのワクワクもくすぐってしまう贅沢な感情を私に湧き起こしてくれた作品が過去にありました。しかも日本映画で。
それは『学校の怪談』です。
今観ると正直子供の頃感じたワクワク感や恐怖感は薄れてしまって、懐かしさの中にしか私が当時感じていた『学校の怪談』への面白さはない。悲しいことにね。
だけど、今回の『IT』は限りなくその時に感じた子供の世界を中心に描かれる恐怖と興奮を味わうことができ、ちゃんとそれらが見事に混ぜ合わさって面白い作品に仕上がっているのが本当に嬉しかった。
残念ながら(?)R15指定なので、子供が見ることもテレビで放映されることも決してないでしょう。
だけどこの映画はどこか、「いつか懐かしくなる可能性を秘めているホラー」だと思うんです。私にとって『学校の怪談』がそうであるように。
子供たちが力を合わせて邪悪なものに立ち向かっていくという冒険に心躍った記憶をアニメやゲーム、ファンタジーではなく、ホラー作品であっても、懐かしさという宝箱に入れておくことがきる可能性がこの『IT』にはあると思うんです。
もしかしたら27年後に、あの時の恐怖に会いたくなるって日が来るかもしれないって、そんな気持ちにもなるんです。
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