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2015年11月14日

#9『シャーロック』


現代にあの名探偵が存在していたら、という新しいようで使い古されたアイデアだが…コイツはお見事だ!


ホームズってサイコパスじゃねーの?という思いつきのようなアイデアを練り練って、シャーロック・ホームズの世界とキャラクターが好きで好きで堪らない方々が限りない愛と汗と尽力を注ぎ込んだ事が伺える大傑作だ。


今をときめく人気急上昇中のベネディクト・カンバーバッチも新しいホームズ造形にフィットしており、おかげでこの後、超天才とか人間を超えた生き物とかいう役ばかりを他の映画などで受ける羽目になるぐらいだ。ワトソン役のマーティン・フリーマンの演技も抜群で、安定して素晴らしいサポートをしている。正にワトソンの役割をこなしている。あと、ホームズの最大のライバルといわれるモリアーティがとてもいい!これまでのホームズだけじゃなく、モリアーティ像をひっくり返した悪の化身としてヤバい感じをしっかり描いている。


普通に観てもかなり面白いが、原作小説を読んでいたらニヤニヤが止まらないぞ。タイトルからいい具合に捻っているし、一つのエピソードの中に上手い具合に原作短編を幾つもさりげなくミックスしている辺りファンには堪らない。


例えば、第一話目の「ピンク色の研究」は小説でホームズが初めて登場した「緋色の研究」をもじったものだ。これはファンなら一発でわかる。そして第三話「大いなるゲーム」に何度も登場するビープ音は実は「オレンジの種五つ」という有名な短編のトリックを現代風に捻っていたり、とちゃんとオリジナル作品への敬意を払った遊び心グッとくる。


少しイマイチの回も少しはあるが、総じて質は高い。特に第四話目の「ベルグレービアの醜聞」はドラマ史上に残る極上の回だ。


ミステリアスな女アイリーン・アドラーにホームズが振り回される話。"愛"が謎であり、"愛"か謎を解く鍵だった、という書いてて恥ずかしくなるし、俺が一番嫌いな部類のストーリー。なのに素晴らしい。展開の素晴らしさ、ホームズの人間性への切り込み、どんでん返しに、爽快な後味。ドラマも、映画も超えた奇跡の一本だ。


あとシーズン3の最終話「最後の誓い」も間違いなくトップクラスの作品。この前の話「三の兆候」がかなり異色の回で、ファンでも意見が分かれたが(私はちなみにこの話も大好き)、この「最後の誓い」を観ると仕掛けられていた仕掛けに驚きの声を漏らすだろう。ホームズから「君は観察力がないな」とワトソンを通じて私たちも痛感し続けてたが、彼もまた「見ているつもりが見ていなかった」ことを痛感する羽目になる。そして、このお話の最も白眉な点はホームズだけじゃなく、実はこの人もサイコパスじゃないの?と投げかけ、ドイルが想像したシャーロック・ホームズの世界に更なる拡がりを作るために風穴をぶち破った、正にサイコーな回だ。


ヒーローでもないサイコパスなホームズ。とても共感できない下衆野郎なキャラクターなはずなのに惹かれてしまう。これは作り手たちの賜物であると同時に観客が、物語が、人間が、根源的に求めているモノをガッチリ掴んでしまったからだ。そのモノとは…ここは作中の言葉を拝借します。


ホームズ「君は"異常"に惹かれているんだ」


ちなみに、ワトソンの妻になるメアリーを演じている女優さんは、ワトソン役マーティン・フリーマンの実生活でのパートナー。二人の間には子供もいるが、結婚はしていない。これを知ったうえで「三の兆候」を観るとまた違った趣を味わえるのでは?


次回は、ピクサーが久々に放ったホームラン!『インサイド・ヘッド』を11/22に紹介予定。


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